しかし、養育を女に任せるという選択をした資本制は、教育までは女に任せない。
教育もまた大へんコストのかかる再生産労働である。だが資本制は驚くべき試みを
やってのけた。中断‐再就職型の暮らしを女におしつけることで、養育を無償労働として
女に担わせたあと、今度は教育の費用負担を同様に女に担わせるという「受益者負担
を実現したのである。市場に適合的な従順な身体が、当事者の負担において、
水準の高いQCのもとにつぎつぎに再生産されてくるとなれば、資本制にとって
家父長制と調停する帳尻は十分に合うだろう。
家父長制の産物である母性イデオロギーが、少しも資本制と抵触せず、女と子どもをともに
搾取される存在に自発的に仕立てていく再生産労働の組織化が、
「家族の再編」の中で進行している。


上野千鶴子『家父長制と資本制』岩波現代文庫、2009、p.341